Inside-Out Needles 坂本泉個展


タイトル:『日陰の憩い』部分 セガンティー二
制作年:2023
マテリアル:紙、毛糸
 

Sakamoto Izumi solo show

『Inside-Out Needles』

2023年4月6日(木)~23日(日)

木・金・土・日 12:00~18:00

i Gallery DC

http://igallery.sakura.ne.jp/dcac/dcac.html

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意識の裏側にある未発見のサイドに光を当てる試みです。第一義的な表面からは埋もれてしまうアナザーサイドの動向に関心を持つと、余計と思われる所に意外なおもしろさや唯一の個性が潜んでいたりします。

周知の図柄を表にみて刺繡を続けるプロセスと、裏側を提示してみせる最終段階。無意識のアナザーサイドは「ない」を「ある」に反転させるある意味のユーモアと遊び、ないものだらけの不完全な自分、感染症の蔓延や戦いの続く世界に感じるやるせなさ。

社会生活で自分に課せられた役割を演じつつほんの少しだけ自分自身を解放する行為、生きる希望を見出すにはどうしたらよいか。壊れやすさ、儚さをあらわす紙を敢えて支持体として用い、ぷすぷすと針で刺しながら自分自身のアナザーサイドを身近に引き寄せたい。そんな時間を生きています。

It is an attempt to shed light on the undiscovered side behind consciousness. If you are interested in the trends of another side that is buried from the primary surface. Surprising fun and unique individuality are lurking in places that seem superfluous.

The process of continuing to embroider by looking at a well-known design and the final stage of presenting the back side. The unconscious another side is a certain sense of humor and play that reverses “no” to “yes” An imperfect self full of nothing. Feeling helpless in a world where infectious diseases continue to spread and battles continue.

The act of liberating oneself slightly while playing one’s assigned role in social life. How to find hope in life. Paper, which expresses fragility and ephemerality, is purposely used as a material. I want to draw the other side of myself close to me while pricking with a needle. I am living in such a time.

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iGallery  FUKUDA Masakiyo

“その昔、わたしは東京郊外にある美術専門学校に通っていました。
学校のある街は私鉄が分譲した新興タウンで、大学通りを中心に整備されています。上品な中流階級が住む学園都市で、高級スーパーはあってもパチンコ屋はありません。もちろん風俗などは問題外です。1年半ほど学校に通いましたが、何となく馴染まない街でした。その理由(わけ)は街には裏町がなかったからです。裏町とは悪場所を含む、大人が息を抜くところです。本来、人の住む街とはそういうもので、表の顔もあれば裏の顔もあります。そのバランスが取れているのが、良い街だと思うのです。裏町がないと、そのドロドロした欲望は思わぬところで爆発します。つまり、街にもガスを抜く裏町のような場所が必要ということではないでしょうか。

坂本泉さんは紙に刺繍をします。
モチーフは西洋名画(ゴッホ、セガンティーニ)と山岳です。
そこまではさして珍しいことではありませんが、刺繍の表ではなく裏を展示しています。キッチリ刺繍した表と異なり、裏は鮮やかな色の刺繍糸があちこちに長く伸びて、カオスな状態を見せています。どうしてそんなことを始めたのかと尋ねれば、ある時何気なく裏を見たら、そっちの方が面白かったからだそうです。なるほどなるほど、きっかけは思いがけないところにあるもんですね。

これは裏町の刺繍ではありませんが、どこか人間の奥底にあるエネルギーを彷彿させます。ゴッホの激しい筆致に似た、アナーキーな生命力を刺繍の裏には感じます。気取った表の街の裏に本音の裏町があるように、美しい刺繍の反対側には人間の生(なま)の世界が零れ落ちています。それを発見して自己の表現にまでまとめ上げたのは流石です。今、刺繍は工芸というジャンルですが、明治以前までは純粋美術と工芸の区分はありませんでした。それを再統合したかのような坂本さんの刺繍作品、手仕事の妙味に感嘆致しました。
ご高覧よろしくお願い致します。”